慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)が、女性の間で急増し、問題になっていることをご存知でしょうか?

 

特定非営利活動法人 女性呼吸器疾患研究機構
宮元 秀昭

背景:

慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)が、女性の間で急増し、問題になっていることをご存知でしょうか? COPDとは、肺の中の空気の通り道である気道が炎症により塞がってしまう呼吸器の病気のことです。WHOの調査ではCOPDは世界の死亡原因の第4位にランクインされており、今後10年間にさらに増加し、2020年には死亡原因の第3位になると予想されています。2000年以降同疾患で死亡する女性は、乳がんで死亡する女性の2倍になっています。2005年、35歳以上の女性のうち425,300人が同疾患にかかっており、毎年4,300人の女性がCOPDによって死亡しています。肺がんよりも深刻かもしれません。

女性の呼吸器の特徴:

女性の方が男性よりも、年齢や体の大きさを考慮したとしても、肺自体が小さく、空気の出入りも少ないのです。また、女性の気道は男性の気道より細く、刺激に対して、縮みやすくなっています。しかし、気道の長さは短いため、息を吐き出す時に抵抗がかかりにくく、女性の肺は男性の肺より息が吐き出しやすい構造になっています。さらに女性はいろいろな身体症状を訴えやすく、呼吸器の有訴者数においては、特に25-54歳の出産・育児期から更年期までの年齢で女性に多いと報告されています。また、男性と同程度の気道の狭窄であっても、早期から呼吸が苦しいと訴えます。そのため女性は、症状が重症化する前に救急室を受診する傾向があり、救急室を受診する回数が多いと報告されています。その理由として、女性の肺が小さいことから、呼吸困難を感じる酸素閾値が低い可能性や、女性の方が周りの人たちから病気を理解されたいと願う気持ちが強いという社会的要因などが論じられています。いずれにせよ、女性の呼吸器は男性と比べて明らかに呼吸機能の予備力が低いのです。

成長に伴う肺機能の発達には性差があります。肺機能は肺実質の増加を反映していますが、肺容量の増加は女性の方が成長が早いうちに停止するので、女性は男性より早期に肺機能の発育が止まります。女性の肺機能の発育が停止する年齢になっても、男性の肺機能は発達をし続け、肺容量は20歳過ぎまで増加し続けます。思春期に男児の方が女児を追い抜いてどんどん身長が高くなるのに並行しています。そのため女性の方が男性に比べて、思春期以前に罹っていた肺の病気の影響が残りやすいと考えられています。さらに女性は中年以降、加齢に伴って気道の弾性が早く消失します。すなわち、女性の方が早熟で、しかも呼吸器の加齢が早いのです。 

女性は同じ体系の男性と比較して肺が小さいだけではなく、胸郭が小さく、気道が短く、気管支径が細く、気道過敏性が高く、大気汚染に対する気管支の反応もおきやすく、咳の閾値が低いと報告されています。胸郭が小さく、気道が短いということは、効率よく肺を広げることができるということで、この点では女性は男性よりも有利です。それは女性には妊娠があり、妊娠して腹腔や胸腔を圧迫されてもそれに適応し、妊娠中の呼吸困難を和らげる仕組みであると理解されています。 

女性の喫煙:

もともと女性の肺は肺の容量が小さいことから、男性と比べて喫煙によるダメージが大きいため、とくに女性喫煙者ではCOPDに対し十分な注意が必要なのですが、それにもかかわらず若年女性の喫煙率が急増しているのはなぜでしょうか?

女性では男性と同じ喫煙量において、喫煙効果が高く、有害化学物質の体内吸収が大きく、肺機能の低下が大きいと報告されています。喫煙量と肺機能の低下との関係を調べるといずれの喫煙量においても男性と比べ女性の方が肺機能の低下が大きいのです。さらに少量の喫煙の影響も大きく、副流煙の影響も男性よりも大きいという女性の喫煙感受性の高さが指摘されています。女性は映画やマスコミの影響を受けやすく、喫煙の開始につながりやすいばかりでなく、一度喫煙を開始すると禁煙が困難で、再喫煙率も高くなっています。子供への影響はもっと深刻です。

喘息と女性:

COPDとよく似た病態である気管支喘息という呼吸器疾患においてですが、一般に小児喘息といわれる年少児の喘息では男児が多く、思春期を過ぎると女性に多く発症します。ドイツでは、年長児の喘息は女児が男児の約2倍多いと報告されています。アメリカでは、喘息発作入院は、年少児では男子が多く、11-20歳では男女差がなく、20歳以上では女性が多いと報告されています。さらに10年間の入院喘息症例の検討では、女性は入院の頻度が高く、入院後の治療に対する反応が悪く、高CO2血症が改善されにくく、ICU管理や挿管を要する状態となりやすく、したがって入院期間も長いと報告されています。カナダでは、小児期では男性が多く、成人では女性が多く、特に25歳から34歳では女性が多く、女性は男性の2.8倍にも達すると報告されています。

日本でも年少児を対象とした小児喘息が男児に多く、年長になると女児に多くなりその寛解率が低いと報告されています。その理由として、先に述べたように、女児では早期に肺の成長が止まってしまい、小児から成人までの肺の発達の過程で、男児では気道障害の回復までの時間的余裕があるのに対して、女児では時間的余裕がないことが一因と考えられています。また、男性が急性期の炎症が強いのに対し、女性では慢性の変化による組織的構造変化、末梢気道の狭窄が進んでいるものと推測されています。 

月経は喘息の増悪因子とされていますが、月経前に1/3の喘息患者が悪化し、1/3の喘息患者が改善すると報告されています。しかし月経前の喘息悪化は治療に反応しにくく、月経喘息として最近問題になっています。月経と喘息悪化に関しての研究では、ホルモンバランスにより肺に水分の蓄積が起こることが悪化に関係するのではないかという報告などがされています。 

このように、喘息においては明らかな性差があり、成人女性に重症喘息が多く、治療に反応しにくいのです。それに反して、経口抗アレルギー薬IPD-1151Tの成人気管支喘息の有効性試験では男女の性差なく改善したという報告があります。

COPDと女性:

慢性閉塞性肺疾患(COPD)自体に性差があることはあまり知られていません。COPDは日本では圧倒的に男性に多い疾患ですが、欧米では女性にも多くみられ、男性と比較して著しく予後が悪いと報告されています。現在では、COPD、喘息の女性患者はともに、発症率、死亡率ともに男性より高く、さまざまな症状を訴えるとされています。欧米では日本より早くから女性の喫煙習慣が広まり、現在、女性たちの慢性肺障害が深刻になっています。女性の方が喫煙に対する感受性が高いために、すでに女性の喫煙習慣が広まって30年以上になる欧米では、男性と比較して明らかに女性の予後が悪いのです。逆に日本では喫煙率が高い男性に圧倒的にCOPD患者が多いのですが、日本でCOPDと肺がんが男性に圧倒的に多い理由として、男性の喫煙率、労働環境、生活環境からの曝露などが指摘されてきました。最近、若年女性の喫煙率が急上昇しているため、今後はわが国での女性のCOPD患者の急増は必至であると考えられています。 

COPDは、主に喫煙によって肺の炎症がおこり、緩慢に進行性に末梢気道が狭く細くなって空気の流れが損なわれていく慢性疾患で、早期には肺の炎症は軽度で可逆性を示しますが、長期にわたると炎症は慢性化し、気道の線維化と狭窄、肺胞の破壊による気腫化と肺の弾性収縮力の低下、末梢気道の開通性を維持するのに必要な肺胞支持部の破壊が起きてきます。初期には咳や痰、風邪症状などの軽い症状ですが、いよいよ進行してくると、労作時の息切れを自覚するようになります。この時点での医療機関への受診ではすでに遅く、この介入する時期が遅れることが大きな問題なのです。これには、患者側の問題として、第1に初期には自覚症状がなく徐々に進行するため、異常であると気づくのが遅いこと、第2に症状を自覚したとしても、風邪や加齢のためと考えて放置しやすいこと、第3に喫煙のため仕方がないというあきらめや、開き直りがあることが挙げられます。さらに医療側の問題として、第1にCOPDは非可逆性疾患であり、適切な治療法がないというあきらめ、第2に喫煙する患者本人が悪いのだから仕方がないという開き直り、第3に診断に不可欠なスパイロメトリーの普及率が低いことが挙げられます。

肺ドック:高分解能CTと肺年齢を用いたCOPDの啓発:

女性のCOPD・喘息に性差があり、男性よりも予後が悪く、疾患に対し男性とは異なった対応が必要なことがご理解いただけたことと思います。女性のCOPDを減らすためには、患者および医療関係者が、禁煙指導、早期診断、早期治療を、男性に対して行ってきたようにするのではなく、女性の立場からみて行うことが重要です。

検診による胸部単純X線写真は肺の異常を見つけるために行われますが、女性の早期肺がんの発見や、COPDの早期診断には役に立ちません。胸部単純X線写真で指摘されるのはかなり進行した状態にあります。早期の肺の器質的変化を見出すためには、高分解能CTの有用性が多数報告されています。肺の末梢の気腫化を鮮明に表示することが可能です。早期の肺の機能的変化を見出すためには、呼吸機能検査、スパイロメトリーが必要です。まだ初期の段階の呼吸機能の低下を検出することが可能で、COPDの早期診断にはスパイロメトリーの実施が不可欠であるとされています。スパイロメトリーで簡単に測定できる、最初の1秒間に吐き出すことができる息の量、「1秒量」は、気道に狭窄が少しでもあると減少します。この1秒量を努力肺活量で割った率、1秒率が70%未満であればCOPDが疑われます。さらに1秒量の予測値に対する割合が80%以上はI期(軽症)、80~50%はII期(中等症)、50~30%はIII期(重症)、30%未満はIV期(最重症)と分類されています。このように、COPDの診断と重症度判定にはスパイロメトリーが不可欠です。 

「肺年齢」というのは、性別、年齢、身長、スパイロメトリーの検査値(1秒量・努力肺活量)から算出し、実年齢とのかい離から肺機能の異常をはっきりと自覚してもらうというのが目的で考え出された指標です。COPDの早期発見、早期介入のためにはスパイロメトリーが重要な手段となり、肺年齢の表示はCOPD患者の認識向上に有益であります。 

「肺ドック」では、高分解能CTと肺年齢表示によって、加齢によって呼吸機能が衰えていくことや、COPDの予防における禁煙の重要性をわかりやすく説明し、早期のCOPD患者には、適切な禁煙指導、薬物療法(スピリーバなど)、呼吸リハビリテーションなどによる早期介入をしています。

最後に:

皆様には、COPD・喘息には性差があり、特異性があることのご理解を得ていただいたうえで、今後私たちは心理、解剖、ホルモン、遺伝子などの性差の研究を行い、研究成果の発表、病因の解明、治療法の開発、性差に基づく医療への貢献を行うことによって、女性の健康に寄与したいと考えています。残念ながらこのような組織は世界で初めてです。私たちがフロンティアとなってこの活動を広げていきたいと思っています。 

多くの方々が私たちNPO法人女性呼吸器疾患研究機構の活動に、ご理解、ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。  


コメント欄を読み込み中