WORED

Women's Respiratory Diseases Research Organization
特定非営利活動法人女性呼吸器疾患研究機構

呼吸器疾患は、今までわが国では男性の喫煙率が高かったこともあって、男性の病気ととらえられてきました。この間違った性差医療のおかげで、女性にとってはたいへんな不利益を被る結果となっています。

まず肺がんですが、日本では男女ともにがんによる死亡原因の第1位が肺がんになっていますが、男性の肺がんが増加していないのに女性の肺がんの増加が日本人全体の肺がん増加の最も大きな要因となっています。肺がんとタバコの関係は科学的にも明らかですが、喫煙女性は喫煙男性に比べタバコ煙に含まれる発がん物質の影響を受けやすく、男性よりはるかに少ない喫煙量でも肺がんになりやすいと報告されています。それなのに女子の方が映画やマスコミなどの周りからの影響を受けやすく、喫煙の開始につながりやすいとされ、一度喫煙を開始すると女性の方が禁煙に成功しにくく、再喫煙率も高いのです。男性の喫煙率が最近急に低下しているのに、女性の喫煙率はそれほど変化がありません。さらにタバコを吸わない女性肺がんの増加も問題になっています。そのうちの一因である受動喫煙ですが、発がん物質の多くは、タバコを吸った煙(主流煙)よりも、タバコをはいた煙(副流煙)に多く含まれています。タバコを吸わない妻の肺がん死亡率は、夫が非喫煙者よりもヘビースモーカーのほうが高いことが報告されています。タバコや大気汚染と全く関係のない女性肺がんも増加しており、その原因として遺伝子変異や女性ホルモンの研究が進んでいます。最近日本ではレントゲン(X線)で写らず、CTでまるですりガラスのような淡い陰影として写る肺がんの報告が急増しています。とくにその割合が女性に多く、さらにタバコを吸わない女性に多く、予後は良好ですが、多発することが多いと報告されています。

気管支喘息では、一般的に人種に関係なく小児期では男性が多く、思春期以降は女性に多くなります。さらに年少児の男児の寛解率が高いのに比較して、年長になると女児の寛解率が低いと報告されています。これは女性の方が、成長に伴う呼吸機能の発達が早く止まるばかりでなく、加齢に伴って気道弾性が早く消失することに起因するものと考えられています。しかも女性は男性と比較して気管支径が細く、気道過敏性が高く、大気汚染に対する気管支の反応もおきやすく、咳の閾値が低いと報告されていますし、月経は喘息の増悪因子です。このように、喘息においても明らかな性差があるばかりでなく、喘息を含む慢性閉塞性肺疾患(COPD)自体に性差があることはあまり知られていません。COPDは日本では圧倒的に男性に多い疾患ですが、欧米では女性に多くみられ、男性と比較して著しく予後が悪いと報告されています。最近日本では若年女性の喫煙率が上昇しているため、今後はわが国での急増が懸念されています。

気胸という肺に穴が開いて肺がしぼんでしまう疾患は、痩せ型の若年男性に頻発する性差のある疾患として有名ですが、女性に起きる気胸は男性と比べ他に基礎疾患を有するものや、原因となる肺嚢胞の好発部位である肺尖部に所見がないものが多く、再発率が高く、難治性といわれています。このように女性気胸は男性と比べ特発性の自然気胸は少なく、異所性子宮内膜症が原因の月経随伴性気胸や、予後が極めて不良のびまん性過誤腫性肺リンパ脈管筋腫症(LAM)などの基礎疾患がさらに病態を複雑にしています。月経随伴性気胸は現在少子化などの原因で子宮内膜症が増加しているため確実に増加しています。女性にしかみられないLAMは近年遺伝性疾患であることがわかってきましたが、肺移植以外に有効な治療法がないと言われてきました。

最近、中年女性、とりわけ家庭の主婦に、非結核性抗酸菌症という難治性の呼吸器感染症が増加しています。検診で胸部レントゲン検査上異常陰影を指摘され、結核菌の仲間だが人にはうつさないと言われる場合があります。この菌は、土壌や水中、食物、動物(家畜を含む)などの自然環境に広く存在しています。結核菌は環境中では生存できず、人に寄生する細菌で、人から人に感染しますが、非結核性抗酸菌はもともと土や水など人間の身近な環境に生息していて、人から人に感染することはありません。その仲間の菌による感染症、MAC(Mycobacterium aviumcomplex)症が最近女性に急増しているのです。この病気は結核と異なり伝染病ではなく、毒力も弱い菌ではありますが、薬が効きにくく、なかなか治りにくく、進行すると大変厄介な病気です。

ほかにも、転移性肺腫瘍、膠原病性間質性肺炎など、女性に高頻度に起こる呼吸器疾患がありますし、降圧剤の副作用の「咳」が女性に多いこと、月経や妊娠との関係、ホルモンや生殖機能の差、遺伝子変異など解明しなければならない問題がたくさんあります。

「NPO法人女性呼吸器疾患研究機構」の事務局は、「東京クリニック」https://www.tokyo-cl.com 内にあります。肺ドックのほか、週に1度金曜日にセカンドオピニオン外来をやっています。多くの方々が私たちNPO法人女性呼吸器疾患研究機構の活動にご理解、ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

NPO法人女性呼吸器疾患研究機構 理事長

宮元秀昭


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