WORED

Women's Respiratory Diseases Research Organization
特定非営利活動法人女性呼吸器疾患研究機構

喘息には性差があり、女性では気道過敏性が亢進しやすく、月経や妊娠で悪化する傾向がある。重症喘息では女性が増加し、アスピリン喘息も多い。治療には注意が必要。

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女性と喘息

NPO法人女性呼吸器疾患研究機構 理事長 宮元 秀昭

1.喘息の性差

喘息は小児期(小児喘息)には男性に多く、思春期以降は女性に多い疾患です。乳児期には2.8:1で男児が多く、その後差がなくなり、思春期以降は1:1.5と女性が逆転します。この傾向は世界でも同様です。喘息はアレルギー疾患の一つですが、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患にも同様の傾向が見られます。これは気管支喘息に特徴の「気道過敏性」によるものです。年齢とともに、男児は気道過敏性が改善するのに対して、女児では気道過敏性が亢進した状態が続き、思春期以降に女性の方が多くなります。さらに女性の場合、月経や妊娠・出産などのライフイベントと喘息が重なると、喘息の悪化を招くこともあり、注意が必要です。

小児期には成長発育の過程で、年齢とともに肺の容量が増加しますが、男性の場合20歳過ぎまで増加するのに対して、女性の場合は思春期に止まってしまう早熟性があります。肺機能においても同様です。そのため、小児喘息の男児の場合は気道障害が回復するまでの時間的余裕がありますが、女児の場合は回復する前に成長発育が止まってしまうために影響が残りやすいと考えられます。また、女性は中年以降の加齢に伴う気道弾性の消失が早く出ます。さらに、女性は男性より肥満の影響が強く出て、喘息が悪化することも指摘されています。最近の研究で、男性の喘息では急性期の炎症が強いのに対し、女性の喘息では慢性期に肺の組織的構造変化が進んでいることが示唆されています。

2.重症喘息の性差

重症喘息に関しては、喘息による死亡率は以前には男性の方が明らかに高かったのですが、近年は性差がなくなっています。重症喘息で多い「アスピリン喘息」は女性に多く、日本では約2倍女性に多いと報告されています。また、ヨーロッパでの調査結果では、4:1で重症喘息が女性に多いと報告されています。さらにアメリカでは、成人の喘息では重症ばかりでなく、軽症でも女性が多く、女性の喘息のコントロールが不良であると報告されています。吸入ステロイドの使用や、病院への通院は男性よりも良好であるのに、救急外来受診や入院の頻度が高く、入院後の治療に対する反応が悪く、入院日数が長く、とくにICU管理や挿管、人工呼吸を要する頻度が高いと報告されています。ところで、女性は症状が重症化する前に病院を受診する傾向にあり、一方男性はかなり悪くなってから受診をする傾向にあります。このように女性では軽症から重症まで全般的にQOLが低く、喘息のコントロールが悪い傾向があります。

その理由として、第1に、女性の方が肺容量が小さく、気管支の内腔が狭く、気道抵抗が高いという解剖学的要因。第2に、女性の方が刺激に対して縮みやすく、気道過敏性が高く(男性の約2倍)、咳の閾値が高く、大気汚染などに対する気管支の反応が起きやすいという生理学的要因。第3に、周囲の人に病気を理解されたいという気持ちが女性の方が強いという社会的要因。などが考えられています。

3.喘息と妊娠

喘息と妊娠に関して、次のことが指摘されています。喘息の患者さんは、薬を使ってしっかり長期管理していると、妊娠しても喘息が悪化しにくく、妊娠が予想される場合は、吸入ステロイド薬の継続などで喘息を安定化しておくことが大切です。また、妊娠中はもちろん妊娠前に喫煙と肥満があれば、妊娠中に喘息が悪化しやすいだけでなく、生まれてくる子どもが将来喘息やアレルギー体質になりやすいことが報告されており、妊娠前から禁煙と肥満対策が必要です。妊娠中は肺が圧迫され呼吸機能が低下するため、妊娠すると喘息は増悪・不変・改善が各々三分の一ずつにみられ、約1/3は喘息が悪化します。妊娠中に喘息が悪化すると、本人だけでなく胎児も低酸素状態になります。妊娠中の薬の使用では、吸入ステロイド薬やβ2刺激薬などの主な喘息治療薬や、ある種の経口ステロイド薬は、妊娠中であっても問題なく使用することができます。授乳中であっても喘息の薬物治療は継続しても母乳に移行する薬の量は少量であり、乳児に影響が出るおそれはほとんどありません。

4.性差の生じる原因

性差の生じる原因に関して、様々な研究報告がされています。「月経喘息」の存在、閉経とともに喘息が寛解すること、ホルモン補充療法で悪化すること、妊娠の影響があることなどから、女性ホルモンの作用が大きな要因であることは明らかです。月経がある女性の喘息患者さんの1/3に、月経が始まる2~3日前から喘息症状の悪化がみられ、妊娠すると喘息は約1/3増悪します。ホルモンバランスの変化により、肺の中の水分が蓄積し症状が悪化するのではないかと考えられています。また、アスピリン喘息や、気道過敏性、肺の発達の性差については遺伝子多型の関与が明らかにされてきています。喘息は「個体因子」と「環境因子」の複雑な相互作用で発症するといわれています。遺伝因子のような個体因子についてはまだわかっていないことも多く、環境因子は、ダニやほこりなどさまざまなアレルゲンや、ウイルス・細菌などの微生物、大気汚染物質など多岐にわたっています。個体因子を持っていたとしても、生まれた後の環境にも左右されるため、単純に遺伝すると予測することはできず、また、絶対に遺伝しないと保証することもできません。

5.終わりに

喘息という呼吸器疾患には性差があり、特異性があることのご理解は得られたでしょうか。私たちNPO法人女性呼吸器疾患研究機構は、心理、解剖、生理、ホルモン、遺伝子などの様々な性差の研究成果を検証する活動を通して、病因の解明、治療法の開発が行われるよう医療界に働きかけ、性差に基づく医療に貢献したいと考えています。今後も、女性の健康に寄与するために、私たちNPOがフロンティアとなってこの活動を広めていきたいと思っています。ご理解とご支援をよろしくお願い申し上げます。
 


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