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Women's Respiratory Diseases Research Organization
特定非営利活動法人女性呼吸器疾患研究機構

COPDの性差について、喫煙が主要な要因であり、女性は男性に比べてより重症化しやすいことがわかっています。女性の方が喫煙の悪影響を強く受け、有害物質の体内吸収量が増加し、肺機能の低下が大きいと報告されています。禁煙の効果も性差があり、肺機能の改善は女性の方が大きい一方、症状の改善は男性の方が大きい傾向があります。女性では吸入療法の誤使用が多く、治療効果が低いと報告されています。呼吸リハビリテーションでは男性の方がより効果があるとされています。女性のCOPDではうつ病の合併が多く、治療効果の低さに影響している可能性が指摘されています。在宅酸素療法においては女性の予後が良好と報告されています。COPDは女性にとっても厄介な病気であり、早期の検査や適切な治療が重要です。

女性と慢性閉塞性肺疾患(COPD)

NPO法人女性呼吸器疾患研究機構 理事長 宮元 秀昭

1.COPDの性差

喫煙がもたらす生活習慣病とも言われる肺気腫などの慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、国内では圧倒的に男性に多い疾患ですが、海外では患者数や死亡者数が男女同等の国もあります。従来COPDの有病率は男性の方が高く、男性の疾患と考えられてきました。しかし、男女間の喫煙率がほぼ同等のオーストリアではCOPDの有病率は男女間で差がなく、アメリカではすでに2000年に女性の死亡数が男性を超えました。わが国では、COPDの有病率も死亡率も、男性の方が女性よりも3倍程度高いと報告されていましたが、若年女性の喫煙率の増加と医師の認識の向上に伴い、今後男女間の差が縮むことが予想されています。

2.COPDの原因と症状

COPDは、タバコや大気汚染の有害物質を吸引することによって、気管支や肺に慢性的な炎症が起こり、呼吸機能が徐々に低下する病気です。初期には自覚症状がなく、進行とともに咳や痰、息苦しさなどの症状が現れてきます。これは、慢性的な炎症で気管支の壁が厚くなって内部が狭まり、気管支の先にある肺胞という房状の袋がつぶれて、酸素と二酸化炭素の交換がうまくできなくなることが大きな原因です。若い頃から喫煙歴のある重喫煙者が、中年以降に発症するのが典型的な例です。よく言われるのが、真綿で首を締めるように、症状が出たときにはすでにかなり進行しているケースが少なくありません。

3. 喫煙によるCOPDの性差

疫学的に、喫煙量が同じであった場合男性より女性の方がCOPDを発症しやすいことが明らかになっています。女性では男性と同じ喫煙量で、喫煙の悪影響が強く、有害化学物質の体内吸収量が大きく、肺機能の低下が大きいと報告されています。さらに、受動喫煙を含む少量喫煙の影響も大きく、「喫煙感受性の高さ」が指摘されています。すなわち、女性は男性よりも肺が小さく気道も細いため、同じ煙の量でも流速が上がり、肺の深部にまで有害物質が達しやすいばかりでなく、女性は気道の感受性(気道過敏性)が高く、たとえ本人が吸っていなくても、受動喫煙によって起きることが多いことが示されています。

4.重症COPDの性差

喘息と同様に、COPDにおいても男性より女性の方が重症化しやすい、あるいは呼吸器症状が強く出ることが明らかにされています。フランスでは、女性は男性に比べて、低年齢で喫煙量が少なくても呼吸困難症状が強く、QOLが低下し、急性増悪の頻度が高いと報告しています。アメリカでは、男性に比べて、より若年で喫煙量が少ない女性ほど、肥満度が小さく、肺機能の低下が大きく、呼吸困難の訴えが強く、QOLが低下し、うつ症状が強く重症であると報告しています。さらに、アメリカではCOPDで死亡する女性の数が男性より多い実態があります。
ところが、COPD患者のCT画像診断所見では、男性に比べ女性ではCT上の気腫性変化がより軽度にあるのに反して、組織学的検査所見では、女性では末梢細気管支の壁の肥厚が強く、内腔が狭小化していることが報告されています。このように写真で見た肺の変化が乏しいとされても、組織での変化は大きいのです。女性の訴えは決して大げさなものではないことを医師は肝に銘じておく必要があります。

5.COPDの性差の原因と治療効果

以上の性差によるCOPDの相違には、解剖学・性ホルモン・遺伝子学的な生物学的性差と、環境学・社会学・文化学的な社会的性差の影響が複雑に絡んでいることを示唆しており、治療効果に対し、十分な考慮が必要です。
治療の基本である禁煙の効果にも性差があり、肺機能の改善は女性の方が大きいのに反して、症状の改善は男性の方が大きく、さらに、女性の方が禁煙に失敗する率が高いことが報告されています。女性では禁煙しても症状の改善が少ないことが影響しているものと考えられています。COPDの薬物療法の中心である吸入療法では、女性の方が吸入器の誤使用が多く、治療効果が低いという報告があります。また、非薬物療法である呼吸リハビリテーションの運動療法では、女性に比べ男性の方がより効果があるという報告があります。さらに、女性のCOPDではうつ病の合併が多いという報告があり、治療効果の低さに起因している可能性が指摘されています。このように治療においても女性は不利ですが、重症患者に対する在宅酸素療法に関しては、日本では女性の方が男性より予後が良好という報告もあります。

6.終わりに

厚生労働省の統計によると2021年のCOPDによる死亡者数は16,384人でした。近年、COPDによる死亡者数は頭打ちになっていましたが、2018年に1995年以降で最高値を記録しています。COPDは20年以上の喫煙歴を経て発症する病気です。これまで、男性の喫煙率が高かったため、「たばこ病」ともいわれるCOPDは高齢者男性特有の病気とみられてきました。しかし、今回示したように、実際には女性にとって厄介な病気であることが明らかになっています。
女性のからだは、思春期、成熟期、更年期、老年期と、女性ホルモンの変化によって大きく影響を受け、また、結婚や育児などのライフステージによって心身が大きく変化をします。女性は、家事、仕事、子育て、介護などで日々忙しくしていると、自分のことを後回しにしがちです。困難な症状があったときにだけ病院にかかるのではなく、病気の早期発見のために検診を受けましょう。その際、女性にはなじみのない検査ですが、肺機能検査を推奨します。
 


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