WORED

Women's Respiratory Diseases Research Organization
特定非営利活動法人女性呼吸器疾患研究機構

女性のみに発生する気胸:月経随伴性気胸(子宮内膜症性気胸)

 

特定非営利活動法人 女性呼吸器疾患研究機構
宮元 秀昭

概念:

病理組織学的に子宮内膜の腺組織と間質組織が存在することを示す必要がありますが、子宮内膜組織が異所性に存在するものを子宮内膜症と定義しています。異所性子宮内膜症は適齢期女性の5~15%に認められると報告されていますが、骨盤腔内に最も多く、胸郭内は約2%と稀です[1]。胸郭内子宮内膜症は気管支、肺実質、胸膜、横隔膜、縦隔臓器など至る所に存在し得ますが、胸膜・横隔膜に病変組織が存在することが多く(約80%)、肺内は比較的少ないです(約20%)。胸膜横隔膜子宮内膜症の中で、月経に伴って気胸を繰り返すものがあり、これを臨床的に月経随伴性気胸と言います。1958年Maurerら[2]による症例報告に始まり、1972年に Lillington ら[3]によって、monthlyperiodicに相当するギリシャ語の翻訳から、カタメニア(catamenial pneumothrax)と命名されました。日本では、月経随伴性気胸が疑われた症例の実際の手術の所見において、横隔膜欠損孔、胸腔内子宮内膜症所見が認められたものが約50%、通常の自然気胸と同様に肺嚢胞の破裂が原因とされたものが約20%、残りの約30%は原因が不明とされています[4]。しかし、子宮内膜症病変は月経周期に伴って変化するので、たまたま手術の時期に術中あるいは病理組織学的にも所見が得られないことが多いです。最近では子宮内膜症性気胸と月経随伴性気胸とは同義語とされています。 ところで月経随伴性気胸は確実に増加しています。少子化、初潮年齢の低下、閉経年齢の高齢化、帝王切開や人工中絶の増加による子宮内膜の損傷など多数の子宮内膜症の増加要因があります。報告が少ないのは、主に月経時に軽度の気胸を繰り返すもので、患者本人が気がつかない、あるいは医師が思いつかないことによるものと考えられます。月経に伴って血痰、喀血、胸痛、背部痛、呼吸困難があれば、疑って胸部単純X線検査、胸部CT検査を行って、気胸(横隔膜下のfree airの報告もある)、縦隔気腫、胸水貯留(血胸)、胸膜直下肺内結節などの胸腔内病変を指摘するのはたやすいことです。しかし実際には無症状、無自覚、あるいは受診時軽快しているものが多く、子宮内膜症の患者を診たら常に念頭において入念な問診をとることが重要です。

発生機序:

血行性転移説・リンパ行性転移説:子宮内膜組織が子宮から静脈系、あるいはリンパ行性に侵入し塞栓を形成し、心臓を経由して肺動脈を介して肺胸膜へ、さらに動脈系に運ばれて、胸腔内臓器に生着し増殖するという説。人工妊娠中絶、帝王切開などの子宮への手術操作や、正常分娩での操作が誘因になる。 
播種説・遊走説:子宮内膜組織が卵管から腹腔内へと逆流し(逆行性月経)、腹膜、横隔膜を介し、遊走し播種するという説。先行する骨盤腔内異所性子宮内膜症から腹腔内に遊走した子宮内膜組織は、時計回りの生理的な腹水の流れに従って、上行結腸外側を経由し、右側横隔膜下で停滞し、主として右側横隔膜腱中心部に着床する。左側は横隔結腸間膜が存在するため、左側横隔膜下には到達しにくい。横隔膜に生着した子宮内膜症性血液嚢腫は、月経時に破れて横隔膜欠損孔を形成し、子宮内膜組織が経腹膜-経横隔膜移動、胸腔内に侵入する。Maurerら[2]は、空気は子宮から卵管、腹腔、横隔膜欠損孔を通って胸腔内に流入し、気胸を起こすと考えたが、しかしなぜ大量の空気が胸腔内に流入するかは疑問が残る。子宮内膜症では月経時の内膜剥離直後に、子宮、卵管の収縮不良が起こり、さらに卵管が破れ、横隔膜欠損孔のため胸腔とつながった腹腔内の陰圧が増大し、大量の空気が子宮から流入することは十分あり得る。
体腔上皮化生(coelomic metaplasia)説:胸膜中皮の化生によって子宮内膜組織ができるという可能性が指摘されている。 
誘導説:未知の物質が子宮内膜組織から分泌されて、未分化の中胚葉から子宮内膜組織を形成させるという説。 実際にはこれらの説だけではなく、免疫やホルモンなどさらにいくつかの因子の関与が必要であろうと考えられています。[8] 

病態:

臓側胸膜または横隔膜に子宮内膜組織が存在し、性周期に依存して増殖、出血、脱落、消退を繰り返します。気胸73%、血胸14%、血痰7%、胸部結節陰影6%という報告[6]があります。発症年齢は15~54歳(中央値35歳)[6]で、ほとんどが右側に起こります(右側に93%という報告[5]、右91.7%、左4.8%、両側3.5%という報告[10]あり)。子宮摘出術後にも発症例の報告があります。診断は臨床的に行われ、典型例では、月経開始72時間以内に発症し[7]、再発性ですが、月経不順症例ではあてになりません。確定診断は胸腔鏡で行う以外に有力な方法はありません。このためには熟練した医師による胸腔鏡検査によって組織を生検し、子宮内膜組織を確認するしかありません。しかし、実際には組織学的診断が得られることは少なく(約50%)、伴場らの月経随伴性気胸の診断基準[4]にも組織学的所見は含まれていません。すなわち、
気胸は月経開始3日前から5日後ぐらいまでの間に発生する。 
発生頻度は2ヶ月に1回以上の間隔で、3回以上の気胸がみられる。
発生頻度が少ない場合、横隔膜の欠損孔、胸腔内子宮内膜症が証明されること、あるいは、両者ともみられない場合には、ブラ、ブレブが存在しないことが重要である。 
と記載されています。 ところで婦人科的検査は重要ですが、骨盤内子宮内膜症の合併は40%以下(22~37%)であり、その際には腹腔鏡検査が有用であり、さらに腹腔鏡で横隔膜子宮内膜症の診断と治療を行うという報告もあります[12]。 横隔膜の子宮内膜病変は裂孔型、格子型、血腫型に分類され、多くは混在型で、1mm?2cmの病巣で、ほとんどが多発性で、月経周期によって変化します。青紫色結節、無色の嚢胞、白色プラーク、点状出血点、黒色点、小孔など多彩です。また横隔膜の筋肉部と腱中心の境界部分の腱中心側の腹側に好発します[13]。私たちの最近2年間の10例の経験では、27~50歳(平均43.4歳)、全例右側で、全例胸腔鏡で横隔膜腱中心の腹側に所見があり、横隔膜切除を行いました。うち8例に病理組織学的に子宮内膜組織の存在を証明できました。

胸腔鏡手術:

本疾患を疑った場合は、まず偽閉経療法、偽妊娠療法などのホルモン療法(ダナゾール、スプレキュア、プロゲステロンなど)を行うのが原則ですが、実際には副作用中止例、難治例、無効例、再発例が多いです[6]。私たちは胸腔ドレナージが必要な症例の場合は、十分なインフォームドコンセントの上で、初回発症時より積極的に診断と治療を兼ねて胸腔鏡手術を行う方針としています。 
一般に、診断と治療を兼ねて自動縫合器を用いて病変部(主に横隔膜腱中心)を切除しますが、病変部が明らかでない場合もあります[7][8]。肺嚢胞(Bulla,Bleb)の破裂による自然気胸の存在はいつも頭に入れて、全肺を含めて十分検索する必要があります。私たちも初回手術で中葉のBullaを見落とし、再発した1例の経験があります。通常3箇所の小さな穴を利用して、胸腔内をくまなく検索し、横隔膜部分切除を行います。自動縫合器での横隔膜切除は横隔膜の張力に耐えられないので禁忌であるとの意見もあります[13]が、少なくとも横隔膜の過剰切除は横隔膜破裂の要因にもなるので要注意です。その場合は小開胸をおいてX字型に縫合するとよいという報告もあります[7]。私たちの経験では、横隔膜を自動縫合器で切除する際、stapler 1個の使用で切除できる範囲の大きさ(最大6cm程度)であれば問題ありませんが、病変の範囲が広い場合は無理せずに直上に小開胸をおいて病変部を直視の上切除し、縫合糸を用いて修復します。横隔膜が裂けないように1号以上の太目の網糸を用います。私たちは針付き吸収性網糸による連続縫合としています。この際切除断端からOozingの出血が認められることがありますが、補助としてタココンブやコラーゲン製剤を貼付することで十分止血されます。さらにこのような貼付剤による被覆はその後の予防にもなるとも考えられます[11]。
病変不明の気胸反復例や術後再発例には胸膜癒着術を行います[7]が、薬剤の胸腔内投与や壁側胸膜擦過法などの通常の方法では再発率が高いので、私たちは超音波凝固切開装置による肋骨に沿った壁側胸膜の階段状切開を行っています。通常、第1肋骨から第10肋骨の上縁に沿って、前方は内胸動静脈の手前まで、後方は交感神経の手前までの距離を、超音波凝固切開装置にて壁側胸膜を連続切開します。この方法は安全かつ容易で、しかもたいへん有用であります。

論文:

  1. Olive DL, Schwartz LB. Endometriosis. N Engl J Med 1993;328:1759-69 
  2. Maurer CR, Schaal JA, Mendez FL. Chronic recurring spontaneous pneumothorax due to endometriosis of the diaphragm. JAMA 1958;168:2013-4
  3. Lillington GA, Mitchell SP, Wood GA. Catamenial pneumothorax. JAMA 1972;219:1328-32
  4. 伴場次郎ほか.月経随伴性気胸の分類と診断基準.日胸疾会誌,1983;21:1196-1200
  5. Foster DC, Stern JL, Buscema J, et al. Pleural and parenchymal pulmonary endometriosis. Obstet Gynecol 1981;58:552
  6. Joseph J, Sahn SA. Thoracic endometriosis syndrome: new observatious from an analysis of 110 cases. Am J Med 1996;100:164-70
  7. Alifano M, Roth TH, Camilleri B S, et al. Catamenial pneumothorax. A prospective study. Chest 2003;124:1004-8 
  8. Alifano M, Trisolini R, Cancellieri A, et al. Thoracic endometriosis: current knowledge. Ann Thorac Surg 2006;81:761-9
  9. Kirschner PA. Porous diaphragm syndromes. Chest Surg Clin North Am 1998;8:449-72
  10. Korom S,Canyurt H, Missbach A, et al. Catamenial pneumothorax revisited: clinical approach and systematic review of the literature. J Thorac Cardiovasc Surg 2004;128:502-8
  11. Bagan P, Le Pimpec Barthes F, Assouad J, et al. Catamenial pneumothorax: retrospective study of surgical treatment. Ann Thorac Surg 2003;75:378-81
  12. Redwine DB. Diaphragmatic endometriosis: diagnosis, surgical management, and long-term results of treatment. Fertil Steril 2002;77:288-96
  13. 栗原正利.胸郭内子宮内膜症.別冊医学のあゆみ,呼吸器疾患-state of arts 2003-2005,東京:医歯薬出版株式会社 2003:723-6 

レクチャーで使用してる写真の説明:

  1. 横隔膜腱中心の子宮内膜病変。裂孔型、格子型、血腫型の混在型。青紫色結節、無色の嚢胞、白色プラーク、点状出血点、黒色点、小孔など多彩である。
  2. 横隔膜腱中心病変部を鉗子で摘み上げている場面。小孔が認められる。
  3. 自動縫合器で病変を切除する。長さ60mm、厚さ3.5mmの自動縫合器1回で切除できる範囲の大きさであれば全く問題ない。
  4. 切除断端からOozingの出血が認められる。
  5. 切除断端をインテグランシートRで貼付、被覆している場面。
  6. 第1肋骨から第10肋骨の上縁に沿って、前方は内胸動静脈の手前まで超音波凝固切開装置にて壁側胸膜を連続切開する。
  7. 後方は交感神経の手前までの距離を、超音波凝固切開装置にて壁側胸膜を連続切開する。 

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