WORED

Women's Respiratory Diseases Research Organization
特定非営利活動法人女性呼吸器疾患研究機構

喫煙をしている女性はもちろんのこと、タバコを吸ったことのない女性でも、初潮から閉経の時期が長い(36年以上)、あるいは外科的手術により閉経した経験のある方は、一度はぜひ「肺がん検診」を受けることを推奨します。

ビデオで解説

本内容を絵解きのビデオでご紹介しています。


2018年の女性の新規肺がん罹患者は約4万人。死亡者数も急増していて、同年は約2万2000人が肺がんによって亡くなりました。日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、国立がん研究センターの2018年の統計データによると、男性が65%、女性が50%で、がんで死亡する確率は、2020年の統計データによると、男性が27%、女性が18%でした。臓器別では、男性が①前立腺がん、②大腸がん、③胃がん、④肺がんの順に、女性が①乳がん、②大腸がん、③肺がん、④胃がんの順に罹りやすく、死因としては、男性が①肺がん、②胃がん、③大腸がん、④すい臓がん、女性が①大腸がん、②肺がん、③膵臓がん、④乳がんの順に多い結果でした。最近は女性の肺がんの増加が日本人全体の肺がん死亡者数増加の大きな要因となっています。

肺がんの一番の原因は「喫煙」であることは言うまでもありませんが、非喫煙者の肺がんが現在注目を集めており、環境、職業、大気、遺伝子、性が検討されています。非喫煙者の肺がんは現在、がん死の第7の原因で、世界で肺がん患者の25%が非喫煙者と推定されています。

女性の肺がんは先進国では、女性の社会進出もあり、喫煙と大きく関係しています。米国では過去42年間で男性の肺がんは36%減少したのに対し、女性は84%増加しました。肺がんに罹患した女性のうち約20%が非喫煙者でした。それに対して、女性非喫煙者肺がんの割合は東アジア・南アジアで高く、60-80%です。したがって、日本女性の場合、喫煙者も非喫煙者も肺がんのリスクが高いのです。非喫煙者の環境リスク要因は、副流煙の喫煙ばく露(受動喫煙)、環境粒子状物質(PM2.5など)、職業ばく露、室内大気汚染、放射線物質(ラドンなど)などが挙げられています。

まず、受動喫煙ですが、2008年の厚生労働省研究班調査によれば、「夫のタバコの煙を吸う妻の肺がん死亡率は2倍以上で、夫の喫煙本数20本以上ではもっと高くなる」、「肺腺がんの37%が夫からの受動喫煙で発症した」、「40~69歳のタバコを吸わない日本女性では、夫からの受動喫煙により妻が肺がんに罹るリスクは約30%高い」という結果でした。受動喫煙の危険性の研究では、「男性の受動喫煙より女性の受動喫煙の方が肺がんになるリスクが高い」、「女性肺がんの非喫煙者の70~80%が受動喫煙を受けていた」、「受動喫煙で肺がんになるリスクは1.3~1.8倍」、「1日20本以上吸う夫の妻の場合は、非喫煙者の夫の妻の場合の2倍以上肺がんになる」などの報告があります。

喫煙以外では受動喫煙が大きな原因であることはご存じのとおりですが、「タバコと無関係なら肺がんにはならないのでは?」と考える女性も多いかもしれません。最近の報告では、非喫煙者肺がんは主に女性および若い患者に発生、細胞型は腺がんで、遺伝子の変異があり、免疫標的療法に良好に反応するとされています。一方、若年者肺がんも知られており、性、組織型、非喫煙などに特徴があります。肺がんの10%が55歳未満の患者で、20-46歳の患者の非小細胞肺がんの研究では、若年者肺がん患者は女性、組織型は腺がん、非喫煙者、肺がんステージが高い場合が多いと報告されています。さらに、女性非喫煙者肺がんには、遺伝子素因が一定の役割を果たしていることがわかりました。上皮成長因子受容体(EGFR)突然変異割合が高く、肺胞上皮置換性増殖の特徴を有する腺がん(いわゆるすりガラス状の陰影の早期肺がん)発生率が高いとされています。

最近の研究では、女性ホルモンが肺がんに関係することが指摘されています。女性ホルモンであるエストロゲンは、肺のがん細胞の増殖を直接促進したり、肺がん細胞中にあるエストロゲン受容体に、エストロゲンがくっつくことによってがん化を促進したりすることにより、肺がんの発生にかかわると考えられています。2022年国立がん研究センターは、女性非喫煙者の肺がんは、女性ホルモンのエストロゲンが関係している可能性があるという研究結果を発表しました。40~69歳のたばこを吸ったことがない約4万2000人の女性を21年間追跡した結果、400人が肺がんに罹患し、うち305人が腺がんでした。閉経が早い女性(47歳以下)に比べて、遅い女性(51歳以上)の方が肺腺がんのリスクが1.41倍高く、初潮から閉経までの期間が短い女性(32年以下)と比べて、長い女性(36年以上)の方が肺腺がんのリスクが1.48倍高いという結果でした。正常な肺や肺がんの組織には、エストロゲンが結合する「エストロゲン受容体」があることから、肺がんの発生にはエストロゲンが関係していると考えられています。初経から閉経までの期間が長い場合、高濃度のエストロゲンに長期間さらされるため、それが肺がんリスクの上昇に関連した可能性があります。卵巣を摘出するなど外科的処置によって閉経した女性は、2.75倍も腺がんのリスクが上がったという研究報告もあります。外科的処置によって閉経したことで、急激にホルモンの変化が起こった可能性や、術後のホルモン剤の服用などがリスクを上げている可能性があります。

喫煙をしている女性はもちろんのこと、タバコを吸ったことのない女性でも、初潮から閉経の時期が長い(36年以上)、あるいは外科的手術により閉経した経験のある方は、一度はぜひ「肺がん検診」を受けることを推奨します。


NPO法人 女性呼吸器疾患研究機構  理事長
宮元 秀昭


コメント欄を読み込み中