WORED

Women's Respiratory Diseases Research Organization
特定非営利活動法人女性呼吸器疾患研究機構

検診で胸部レントゲン検査上異常陰影を指摘され、「感染症であり、結核菌の仲間だが人にはうつさない」といわれる場合があります。結核菌の仲間で結核とは違うといわれるのは、非結核性抗酸菌と呼ばれる菌で土壌や水中、食物、動物(家畜を含む)などの自然環境に広く存在しています。結核菌は人に寄生する細菌(結核菌自身は環境中では生存できない)で、人から人に感染しますが、非結核性抗酸菌はもともと土や水など人間の身近な環境に生息していて、人から人に感染することはありません。この菌に感染して起きる非結核性抗酸菌症は昔から存在した病気だと思われますが、結核に似た症状・病態だったので、結核が多かった時代には混同して考えられていました。しかし、結核菌とよく似ているが別の病原菌を原因とする病気であることが分かり、40年ほど前から「非定型抗酸菌症」と呼ばれるようになりました。近年は「非結核性抗酸菌症」という呼び方が一般的になり、次々と新しい非結核性抗酸菌が発見され、罹患率も増加しています。その中で、わが国で多いのが、Mycobacterium avium complex菌による肺MAC症と呼ばれるもので、気管支を中心に病変を作るこの肺MAC症が最近わが国の女性に急増しているのです。最初に記したようにこの病気は結核症と異なり伝染病ではありませんが、薬が効きにくく、なかなか治りにくい病気なのです。

NPO法人女性呼吸器疾患研究機構
理事長  宮元 秀昭

疫学と病態

抗酸菌には結核菌・らい菌・その他があり、結核菌とらい菌以外の抗酸菌をすべて非結核性抗酸菌と呼び、毎年のように新しい菌が見つかっています。非結核性抗酸菌(抗酸菌であるが結核に非ず)は英語ではnon-tuberculous mycobacteria (略してNTM:エヌティーエム)と呼ばれます。NTMは土壌、水系、食物、動物(家畜を含む)などに生息しています。現在、約150種類以上が知られており、そのうちわが国で人に病気を起す主な菌は約10〜20種類(イントラセルラーレ菌、アビウム菌、カンサシ菌など)あります。その菌に感染して起きる「非結核性抗酸菌症」という病気が最近わが国の女性に急増しています。

感染率は10万人に1.45人(1985年)、2.99人(1992年)、5.7人(2007年)、14.7人(2014年)と、最近7年間で約2.6 倍に増加しています。また、他の諸外国と比較しても、わが国のNTM 症罹患率はきわめて高く、NTM 感染は今後の重要な問題となっています。

感染系路として、NTMの吸入による呼吸器系からの飛沫感染と、NTMを含む水や食物を介する消化器系からの接触感染があると言われています。リンパ節、皮膚、骨・関節に病変を作ることもありますが、最も病変ができやすいのは肺です。かつては結核や肺に病気を持つ人がおこしやすいと言われていましたが、近年、世界各地で肺に病気がなく、免疫力も正常な人にNTMによる肺感染症が増加していると報告されています。NTMは結核菌と異なり人から人へ感染しません。経過や胸の画像検査で結核と区別できる場合も多いですが、菌の名前がわかるまでの数日間は結核菌と区別がつかず、ひとまず結核として対応しなければならない場合もあります。また結核として治療を開始される場合もあります。

NTMの中で、Mycobacterium avium complex(略してMAC:マック)菌による肺感染症である肺MAC症が全体の88.8%を占め,推定罹患率は13.05(2014年厚労省報告)、Mycobacterium kansasii(カンサシ)菌による肺カンサシ症が約10%です。この2種類で90%以上をしめます。肺カンサシ症は結核と区別のつかないことも多く、特に増加傾向はなく、治療によく反応します。一方、わが国で最も患者数の多い肺MAC症ですが、最近増加しており、とくに中年以降の女性に急増しており、若年者にも見つかっています。

気管支を中心に病変を作ることが多く、気管支拡張症、慢性気管支炎と言われてきた患者さんの中に、痰の中の菌を調べるとMAC菌が見つかり肺MAC症と診断されることがよくあります。NTMは、自然界に普通に存在しているので、だれにでも感染の可能性があります。しかし、感染(病気がうつる)と発病(病気になる)は、全く別のことです。結核の場合でも感染を受けた人の10%しか発病しないといわれていますが、NTMは、結核菌よりも毒力が低いと考えられているので、ほとんどの人は、たとえ感染しても発病しません。しかし、肺に病気を持っている人(肺結核の後遺症、肺嚢胞症、気管支拡張症など)、エイズ患者、手術後などで体力や体重の激減した人などは発病の危険が高いと思われます。また、はっきりした原因がなく発病する人もいますが、やせて神経質でストレスを多く抱え込みがちな人や、ドライアイ・ドライマウスのように身体の分泌物が少ない人に多いようです。

発見動機と症状

非結核性抗酸菌症は中高年女性に発症することが多く、初期は無症状で、肺の中下肺野に多発性の小結節や気管支拡張像が認められることが多いのですが、突然血痰が出て、レントゲンを撮り発見されることもあります。初期の段階で、結核ではないかと間違われたり、結核と診断されることもあるほど似ている場合もあります。

抗酸菌というのは酸に抗う(あらがう)と書きますが、実際、胃酸にも強く、夜間のセキなどで排菌した菌を飲み込んでいる場合があり、痰が出ない場合、胃液を検査することにより診断がつくことがあります。NTMは土やほこりの中にいて、抵抗力が落ちたときに感染しやすく、肺に古い病変のある人に発病する事が多いとされています。健康体の方は、非結核性抗酸菌が気道を介して侵入しても通常は痰とともに速やかに排除されて容易に病気を生じません。稀に健康と思われている人(中年女性に多い)に発病する場合があること。さらに、痰が少ない、出にくいなど、いろいろな要因が重なると、感染が成り立ち、非結核性抗酸菌症を生じうると考えられています。

非定型抗酸菌症に特有の症状はありません。その中で、肺カンサシ症は男性の喫煙者に多く、肺の上葉に空洞を生じることが多く、この菌種のみ人から人への感染がありうるかもしれないといわれています。症状は非常に軽いことが多く、全く症状がでないこともありますが、結核症でよく認める発熱、寝汗などは無いことが多いです。通常、症状の進行は緩やでゆっくりとしており、徐々に進行するタイプと、無治療でもほとんど進行しないものもありますが、病気が進行すれば、慢性的な咳や痰、微熱、発汗、食欲不振、貧血、体重減少(たとえば1年で5kg)、倦怠感、血痰、喀血などが出現します。患者の80%は血痰が出て気づくといわれています。症状は無くても、偶然に検診で胸部レントゲンやCT(シーティー)検査で異常を指摘されたり、以前から指摘されていた影について原因を調べているうちに診断されることもあります。気管支に病変を作るので、病気の重さとは関係なく血痰が出ることもあります。

診断

レントゲンやCTなどの画像診断では結核症と非定型抗酸菌症の区別はなかなか困難とされています。胸部X線では肺結核に似た空洞形成がみられる場合や、空洞を伴う肺浸潤影の形をとることもあり、結節影の形をとるものが最近増加しています。近年、画像診断法の進歩と, 胸部CTの普及により、症状が無くてもNTMによると考えられる初期の病変が発見されるようになりました。そのため2008年に日本結核病学会の非結核性抗酸菌対策委員会と日本呼吸器病学会感染症・結核部会が合同で新たな診断基準を発表しました。診断基準としては、胸部レントゲンで多発性結節か空洞か2カ月以上続く浸潤影があること、HRCT(高解像度CT)で多発性の小結節か肺野の小結節を伴うもしくは伴わない多発性の気管支拡張所見があることなどが挙げられています。

さらに、喀痰・胃液・気管支鏡による気管洗浄液を材料として、喀痰塗抹検査(抗酸菌は酸に強い菌の仲間で、その性質を利用した染色によって痰を染めて顕微鏡で赤く染まる菌を見つける検査)を行い、結核菌を顕微鏡で見つけます。喀痰1ml中に約7000個以上の菌が存在すると菌が検出され、陽性とされます。しかし何千個程度では検出されず、陰性とされますが、培養検査で菌が確認されることもあります。また、死菌でも染まるので培養検査の結果を待って診断する必要があります。菌種の区別はできません。塗抹陽性の場合には結核菌か非結核性抗酸菌かの鑑別のため、培養検査を行い、抗酸菌を確認し、さらに進んだ検査を行い、結核菌か非定型抗酸菌かを見極めます。培養された抗酸菌がナイアシンテスト陽性であれば、結核菌と診断され、陰性であれば非定型抗酸菌と診断されます。結核菌と非定型抗酸菌は顕微鏡検査でも区別がつきにくく、菌培養後のナイアシンテストというテストで区別するくらい似ているのです。さらに遺伝子診断法PCR法(HCV-RNA:核酸増幅反応法)やDDH法検査によって確定診断されます。PCR法は早くそして正確に結核菌を診断できますが、死菌でも陽性になるので培養検査の結果を待って診断する必要があります。塗沫検査で菌がみつからない場合、PCR法陰性でも痰を培養してみると菌が増殖してコロニー(目で確認できるもの)を形成する場合があります。精度は高いが、結核菌は分裂・増殖するスピードが一般菌(大腸菌やブドウ球菌など)に比べてはるかに遅く(一般菌は大部分が翌日にはコロニーを形成するのに対して結核菌は1ヵ月もかかる)、結果がでるまでにかなりの時間がかかるのが難点です。抗酸菌は自然界に存在しており、たまたま喀痰から排出される(偶発排菌)こともあるので、ある程度以上の菌数と回数が認められることと、臨床所見と一致することが必要です。

以上のように、喀痰塗抹検査陽性の時点では結核との区別が出来ないので、結核の可能性ありとして隔離入院が勧奨されます(強制力はなく患者が判断する)。入院した場合は結核予防法35条の公費負担が申請出来ます。後に、最終検査結果により非結核性抗酸菌症と判明した場合は、伝染病扱いはなくなり隔離は解除されます。

培養検査(培養結果までの期間は小川培地で4〜8週間ほど、液体培地ではかなり短い期間で検出できる)で抗菌薬に対する感受性を調べて治療薬が決められますが、抗結核薬が必ずしも効かず、結核に比べてはるかにしぶとい菌です。MAC症の場合、現在使用されている結核菌のための感受性試験の結果はまったく参考となりません。

ところで、結核のほかに、肺真菌症、肺炎、肺がんなどとの鑑別も重要で、とくに専門医の間では、進行肺がんとの鑑別が最も重要であると認識されています。

治療

この病気は結核症と異なり伝染病ではありませんが、薬が効きにくく、なかなか治りにくい病気です。原則は、非定型抗酸菌を検出しても、対応する症状が全くない場合には病気として扱いません。排菌の無い人、症状がないか軽症の場合には、無理しない生活を心掛けるだけで薬剤を投与せずに経過観察し、とくに治療はしません。痰の培養をすると陽性となる場合でも、咳、痰、微熱などの症状がないか、あっても軽い場合には、レントゲンで経過を観察しながら、とくに治療はしません。治療しないで、数年間変化がない人や、軽快する人も多く、初回の治療でかなり改善したりする人も多いのですが、一方、一旦減少した排菌量が何らかの原因で再度増加することもあります。

1.薬物療法

咳・痰・血痰等の症状がある場合は、通常結核の治療薬を中心に、一部、一般の抗菌薬も用い、3〜4種類の多剤併用で治療します。結核は通常6〜9ヶ月程度の服薬で治ることが多いのですが、NTMは結核菌より病原性は弱い菌なのに、結核よりはるかに頑固な菌で、効きめが弱くすぐには効かない場合もあり、最低でも1〜2年程度の服薬が必要となり、薬が効果を上げない場合は5〜10年単位で病気と長くつきあうことも多いのです。いまだに確実な治療薬はなく、効果は限定的な点が問題であり、強力な薬を複数長期間服用するのは患者にとって大変な負担になり、時として治療の続行が困難になることもあります。初回治療でかなり改善の認められる方もいらっしゃいますが、いったん減少した排菌量が治療中にもかかわらず、再増加する場合もあり、治療を断念することも多いです。とはいっても、画像で空洞(肺組織の一部が病気で崩れて穴があいた状態)を認める場合、過去の画像と比較して明らかに悪くなっている場合、痰から多数のMAC菌がみつかる場合などでは治療を開始しますが、多くの場合には緊急性が無いので患者さんの背景を良く理解し、治療内容、副作用や定期的な画像や喀痰検査等の重要性を理解した上で治療を開始することが重要です。

薬物療法の治療効果は約半数と言われています。確実に治せるという治療法がいまだに確立されていないので、患者数は増える傾向にあり、結果として漸次進行例や重症者が増えてきているのが実情です。経過を見ていると、年単位で少しずつ進行してゆく例が多いようです。経過によっては空洞形成まで3〜20年かかり、感染後20年位で呼吸不全に陥る事もあります。割合は軽症30%、中等症50%、重症20%という数字もあります。その結果、呼吸器科医が現在最も苦慮している病気の一つとなっています。とにかく、厄介な病気なのです。

肺MAC症の場合の薬物療法で、代表的な治療薬はクラリスロマシシン(CAM)とエタンブトール(EB)です。この2種類の薬に、リファンピシン(RFP)を加えて3種類の薬で治療を行ないます。また病状によってストレプトマシン(SM)、カナマシシン(KM)などの注射剤(筋肉注射)を使用する場合があります。中でもCAMは治療の要となる薬です。CAMは現在第一選択剤と位置付けられており、EBは第2選択肢。SMとKMは注射薬であること、副作用などの問題から老人には使用しにくい薬剤です。また2008年10月より、RFPと同じリファンマイシン系の薬であるリファブチン(RFB)が使用可能になりました。ニューキノロン剤の併用効果を指摘する医師もいます。しかし、2012年結核87巻には、CAMと2剤併用ではCAM耐性の出現が多いことやMACに対してブレイクポイントが高く効果がないとの意見もあるので推奨されてはいません。肺カンサシ症の場合は、結核と同様の薬物治療を1年から1年半実施します。菌陰性化後も1年間投与する必要があります。RFP等によく反応し比較的良く治ります。

いざ治療となると、CAMですと200mgの大きな錠剤を通常感染時の1.5〜2倍量である、600〜800mgを毎日、それに加えてSMかKMの筋肉注射を週2〜3回することになると、患者さんとしてはかなりの負担になることは間違いなく、治療の続行にも困難があります。したがって、排菌のない方、症状・レントゲン上陰影の変化が少ない方は数ヵ月ごとにレントゲンで経過をフォローしているだけの場合も多く見受けられます。数年間変化なしで過ごされる方も数多く見られますので治療をどのように続けていくか難しいのが現状です。

さらに、副作用として、アレルギー反応(発疹、発熱など)や肝臓や腎臓への影響、血小板減少や白血球減少などがあります。その他に特徴的な副作用としてEBによる視神経障害、RFBによるぶどう膜炎(眼の副作用)、KM・SMによる第8脳神経系への作用によるふらつき(平衡感覚異常)や聴力低下(聴覚異常)、など五感に関係する副作用があります。日頃から新聞や本、雑誌の見え方に注意したり、階段などでのふらつき、耳の聞こえ方、などに注意します。大切なことは治療を開始したら服薬を確実に継続すること、副作用と治療効果を判断するため定期的な受診(内科、眼科、耳鼻咽喉科)と検査(画像検査、血液検査、喀痰検査など)を行なうことです。

2.外科療法

空洞などがあって、排菌が止まらず、病変が限局していれば、外科手術も治療法の一つになります。強い症状があり、肺の病変が著しい場合には、外科手術を考慮します。手術の時期を適切に判断すれば80〜90%程度の社会復帰が達成されます。病変の形状、広がり、排菌状況などによっては患者さんの年齢、基礎疾患、全身状態、肺機能(肺の余力)などを総合的に判断して主病巣を切除することがあります。2008年に日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会から手術に関する考え方が示されましたが、手術経験の豊富な医師への相談が望ましいと思われます。

日常生活と予防

ヒトからヒトへの伝染はないので、自宅で家族と一緒に生活しても問題なく、家族や周囲のヒトに対して特別な配慮は必要ありません。排菌強陽性の人でも隔離の必要はありません。十分な栄養と安静をとることが重要です。規則正しく生活し、十分な睡眠をとる必要があるのは言うまでもなく、引っ越し・大掃除・旅行・看病・葬式・結婚式・孫の世話等で無理をしないように注意してください。治療をするにしても、経過観察するにしても、長期に及ぶ事が考えられるので、あせらず、我慢強く、ゆとりを持って過ごすことが大事です。

NTMは、日和見(ひよりみ)感染症の一つです。日和見感染症とは、普通の健康な人では感染症を起こさないような弱い病原菌が原因で発症する感染症です。身体の抵抗力や自然治癒力が病原菌の増殖を抑えられなくなると病気は進行・進展します。薬物療法や外科治療は病原体を取り除く方法ですが、自然治癒力を増強することはできません。自然治癒力を増強するには、毎日の食生活、睡眠、仕事を管理し、ストレスをためないことが肝要です。

【NTM菌の特徴のまとめ】

  1. 結核菌と違い、感染力は弱く、ヒトからヒトへの感染はない
  2. 生活環境(室内埃、川・池・風呂・キッチン・トイレ・洗濯場・洗面所などの水場、シャワーヘッド内部など)に広く存在している
  3. 土埃、動物の糞、井戸水、生魚、汚染された医療器具の使用等によっても感染し、水道水に混入している可能性もある。また、製氷機からも検出され、それが原因で呼吸器に定着したという報告もある。動物の糞の処理や、園芸をやるときはマスクをした方が無難
  4. 肺に基礎疾患(肺がん・COPD・気管支拡張症・じん肺等)があったり、HIV感染患者(エイズ)や白血病患者、臓器移植患者等で抵抗力が落ちている場合のように、ヒトの抵抗力が小さくなったときに定着し、増殖し、発症しやすい
  5. 結核と比べて、経過がゆっくりだが、薬が効きにくい

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