
適齢期女性に起こる肺がつぶれる病気(月経随伴性気胸)
NPO法人女性呼吸器疾患研究機構 理事長
宮元 秀昭
「子宮内膜症」が原因で、月経周期に伴って肺がつぶれる病気である「気胸」を併発することがあります。子宮内膜症は、少子化、初潮年齢の低下、閉経年齢の高齢化、晩婚化、帝王切開や人工中絶の増加による子宮内膜の損傷など多数の増加要因があり、適齢期女性に確実に増加しています。
子宮内膜症は、生殖年齢にある女性の約10%に存在します。その内90%に月経困難症などの疼痛が認められ、50%に不妊が認められます。子宮内膜組織が子宮以外の異所性に存在するものを「異所性子宮内膜症」と定義しています。異所性子宮内膜症は、適齢期女性の5~15%に認められると報告されていますが、骨盤腔内に最も多く、胸郭内は約2%と稀です。このいわゆる「胸郭内子宮内膜症」は、気管支、肺実質、胸膜、横隔膜、縦隔臓器など至る所に存在し得ますが、肺の外側の胸膜(臓側胸膜)や横隔膜に子宮内膜症の病変が存在することが多く(約80%)、肺内は比較的少ないとされています。病因は多説有り、定説はありません。


「胸膜・横隔膜子宮内膜症」は月経に伴って気胸を繰り返すのがその特徴であり、臨床的には、「月経随伴性気胸(または、カタメニア:catamenial pneumothorax=monthly periodic)」と言います。1958年 Maurerらによる症例報告(月経時に15回の気胸を繰り返した35歳女性)に始まり、1972年にLillingtonらによって命名されました。
「月経随伴性気胸(=子宮内膜症性気胸)」は、発症年齢は30~50歳で、ほとんどが右側に起こり、右側が91.7%、左側が4.8%、両側が3.5%という報告があります。気胸は肺がつぶれる病気ですが、月経に伴って血痰、喀血、胸痛、背部痛、呼吸困難があれば、医師が疑って、胸部単純X線検査、胸部CT検査を行い、気胸、縦隔気腫、胸水貯留(血胸)、胸膜直下肺内結節などの胸腔内病変を指摘するのは比較的たやすいことです。しかし実際には、月経時に軽度の気胸を繰り返す場合でも、無症状、無自覚、あるいは受診時すでに軽快しているものが多く、本人が気付かない、あるいは医師が思いつかない場合がよくあります。健診や、たまたま撮ったレントゲンで見つかることもあります。症状があって病院に行って発見されても保存的に安静のみで様子を見られることが多く、程度がひどい場合や、何度も繰り返す場合は手術が行われます。日本では、月経随伴性気胸が疑われた症例の実際の手術の所見において、横隔膜に子宮内膜症所見が認められたものは約50%、通常の自然気胸と同様に肺嚢胞の破裂が原因とされたものは約20%で、残りの約30%は原因が不明と報告されています。横隔膜の子宮内膜病変は、筋肉部と腱中心の境界部分の腱中心側腹側に好発し、欠損孔(いわゆる穴)を認めることがよくあります。
子宮内膜は月経周期によって変化します。上記の場合、横隔膜や臓側胸膜に子宮内膜組織が存在し、性周期に依存して増殖、出血、脱落、消退を繰り返します。青紫色結節、無色の嚢胞、白色プラーク、点状出血点、黒色点、小孔など多彩な形状を呈します。Re-AFS(米国不妊学会)分類のRe-ASRM分類という方法があり、腹膜(表在性)病変を色調と形態により大きく3パターン(Red・Black・White)に分類しています。横隔膜病変も腹膜病変同様に3パターンに分類することができ、月経周期の時間的推移によって、Blackの時期に穴が開いて、気胸を発症するのではないかと私は考えています。さらに、たまたま手術時、月経周期による変化のWhiteの時期にあたって、手術中の肉眼所見、さらには切除標本の病理組織学所見にも確定診断が得られないことが多いのではないかと考えています。




診断は臨床的に行われますが、確定診断は腹腔内・骨盤内の病変が腹腔鏡で行われるように、胸腔内も胸腔鏡で行う以外に有力な方法はありません。月経随伴性気胸では骨盤子宮内膜症の合併が40%程度ありますので、婦人科的検査は重要であり、その場合は腹腔鏡検査が有用です。私たちは以前、順天堂大学医学部呼吸器外科・産婦人科の共同臨床研究「月経随伴性気胸周術期管理Protocol study」を行いました。難治性の気胸患者さんに説明と同意を得て、全身麻酔下砕石位で胸腔鏡と腹腔鏡を同時に施行し、骨盤内・胸腹部横隔膜の徹底観察と病巣摘出を行いました。14例の患者さん(18~50歳;平均43.4歳、右側12例・左側2例)に実施しました。結果は、全例腹腔鏡または胸腔鏡で子宮内膜症と診断でき、横隔膜に所見があって横隔膜切除を行ったのは12例、うち10例に病理組織学的に子宮内膜組織の存在を証明できました。診断率100%と診断率が著明に向上しました。臓側胸膜に所見のあった例はありませんでした。
月経随伴性気胸に対する治療方法ですが、すぐに手術するのは誤りで、本疾患を疑った場合は、まず偽閉経療法、偽妊娠療法などのホルモン療法を行うのが原則です。しかし、実際には副作用中止例、難治例、無効例、再発例が多く、気胸の程度が重度で、胸腔ドレナージ(胸に細い管を入れて、胸腔内の空気を外へ出すこと)が必要な患者さんの場合は、十分なインフォームドコンセントの上で、積極的に診断と治療を兼ねて胸腔鏡手術が行われます。しかしその場合でも手術後にホルモン療法が必要で、手術後に何もしないでいると、再発することが多いのがこの病気の厄介なところです。ホルモン療法としては、OC(oral contraceptive:低用量ピル)または、GnRH(gonadotropin- releasing hormone agonist) antagonistの投与が一般的です。GnRH antagonistのデメリットは、投与開始時にflare up(急に悪化すること)があること、手術時病巣が判別しにくいことなどが挙げられています。私たちのProtocol studyでは、主に術後半年間のOC投与のホルモン療法を行いましたが、4例の術後再発例がありました。初回手術で中葉の肺嚢胞を見落とし再手術した1例、再発時重症気胸で再手術時初回見落としの横隔膜病巣切除を行った1例、術後OC投与中止後気胸になり、OCを再開後に保存的に軽快した2例、の合計4例です。術後再発率約30%弱でした。その後の再発はありませんでした。
ライフスタイルの変化に伴い子宮内膜症は増えています。横隔膜病変も腹膜病変同様月経周期によって変化し、変化の途中で穴が開くと考えられるので、 病変の変化による見落としに注意が必要です。子宮内膜組織は月経周期によって退縮してしまうため、組織学的に確定診断が難しいのが厄介な点です。正確な診断に基づき患者さんにあった治療を選択することが重要ですので、呼吸器外科と婦人科とが協力して診療する体制が必要です。さらにホルモン療法を工夫することが再発防止に必要不可欠ですので、医師の経験と専門的知識が要求されます。病院を受診する際には、以上のことを参考に選択されるとよいと思います。

