連載「日本酒と健康」第1回。日本酒検定1級の医師が、風邪と日本酒の関係を国内外の研究から読み解きます。体を温める飲み方や純米酒の成分、適量の目安や薬との併用リスクなど、知っておきたいポイントを紹介。

【はじめに】

今年は夏の終わりころからすでにインフルエンザが流行しています。これからさらに寒くなって、乾燥した秋から冬に向けて風邪が流行します。皆様はいかなる対策を立てておられますか?
 私は医師でありますが、酒、中でも日本酒が大好きで、日本酒を極めようと思い「日本酒検定」を受験し、ついに1級を取得し、「日本酒名人」の称号を頂きました。そこで、日本酒について様々に学んだことをもとに、医師として日本酒の健康に対する効能を考えたいと思います。
 第1回目は「風邪と日本酒」です。「お酒を飲んでいると風邪をひきにくい」「風邪は体内をアルコール消毒すれば治る」「日本酒は飲む点滴だ。」などという酒のみの方々の意見もあれば、2018年には「飲酒は少量でもリスクがある」という論文が医学雑誌『Lancet』で発表されています。果たして実際にはどうでしょうか? 日本酒は風邪に効くのでしょうか?

【風邪とは】

 まず、風邪とは? 急性上気道感染症の1つで、風邪症候群(common cold)と呼ばれており、ウイルスやバクテリアを原因として、鼻汁・鼻閉・咽頭痛・咳などの上気道炎症状をきたし、自然軽快する症状群です。風邪の原因はほとんどがウイルスで全体の8~9割、残りの1~2割がバクテリアです。従って風邪を疑う場合、原則としてウイルスに無効な抗生物質は処方されません。風邪の原因となるウイルスは200種類以上あるといわれています。最も多いのが春と秋に猛威をふるうライノウイルスで、風邪の30~40%がこのウイルスが関係しており、別名『鼻風邪ウイルス』といわれるように、鼻づまりやのどの炎症を引き起こします。冬に流行しやすいのは新型ではないコロナウイルスで、風邪の約10%がこのコロナウイルスによるものです。このほか、RSウイルスやアデノウイルスなどもあります。風邪とは分類が異なりますが、気道感染症を生じる最も怖いウイルスが、インフルエンザウイルスです。冬に勢いを増しますが、今年は夏からすでに報告が増えています。インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型があり、A型とB型は毎年大流行して重症化することが問題になっています。一方で、C型は軽症で風邪と区別がつきません。加えて新型コロナウイルスも今でも一年を通して発生し続けており、早期に肺炎を起こしやすいので、いくら有効な薬剤ができたからと言って無視はできません。風邪が悪化すれば(風邪をこじらせると)、炎症が上気道を通り越し、気管から気管支に広がると気管支炎に、肺に到達すると肺炎になり、重症化します。

【アルコール飲料と風邪】

 さて、日本酒を含めたアルコール飲料と風邪の発症率との関係ですが、1993年にイギリスのコーエンらの研究で、「ストレスが大きい人や喫煙者は発症率が高い。非喫煙者の場合はアルコールの摂取量が多くなるほど風邪発症率が低い。」という結果が報告されています(Am J Public Health. 1993;83:1277-83.)。さらに、2002年スペインの研究で、「ワインの摂取量が多い人ほど、風邪の発症リスクは低い。ワインの飲酒量が増えるほどリスクが減る。」と報告されています(Am J Epidemiol. 2002:155;853-8.)。また、日本の東北大学のコホート研究「仙台卸商研究」では、「飲酒頻度が高いほど、風邪罹患リスクが減少する。とくに、毎日適量のお酒を楽しむ人は、風邪罹患リスクが最も低かった。」と報告されています(BMC Public Health. 2012;12:987.)。以上からいえることは、飲酒が風邪の予防に役立っているということです。なぜなのか? 様々な考察がされていますが、第1に飲酒によるリラックス効果、即ちストレスの軽減作用が考えられます。アルコールはGABAの受容体と結合してリラックス・幸福感を得る効果があるばかりでなく、NMDA受容体(グルタミン酸系)を抑制して入眠を促進し、深い睡眠を得る効果があります。第2にアルコールの血管拡張作用による効果です。代表的な風邪の原因ウイルスであるライノウイルスは37℃以上では増殖しにくくなるので、ライノウイルスの感染場所である鼻腔・咽喉頭粘膜の血管が拡張し、温度が上がることによってウイルスの増殖が抑えられるのではないかと考えられています。なかでも日本酒は、米を原料とした醸造酒で、発酵食品でもあります。他のアルコール飲料と比べて、体温上昇促進効果が持続しやすく、体が温まる実感を得やすいのが特徴です。さらに、日本酒に含まれるアミノ酸やビタミンB群、亜鉛などの成分は、免疫力のサポートにも役立ちます。これにストレス軽減作用も加わり、総合的に風邪予防に良い影響を与えているものと考えられています。日本酒についてさらに詳しく述べましょう。

【日本酒と風邪】

日本酒には、体を温めるだけでなく、免疫力をサポートするさまざまな成分が含まれています。代表的なのが「アミノ酸」です。日本酒は発酵の過程でお米のタンパク質がアミノ酸に分解されるため、他のアルコール飲料と比較しても豊富なアミノ酸を含んでいます。日本酒には120種類以上のアミノ酸、ペプチド、コウジ酸、フェルラ酸などの栄養物質が含まれ、これらが健康効果に関与すると報告されています。このアミノ酸は、病原菌やウイルスが体内に侵入した際に、それらを排除する働きを助けるばかりでなく、免疫機能を高める作用があります。また日本酒には、ビタミンB群、とくにビタミンB6が含まれていることも大きな特徴です。ビタミンB6は、免疫機能の維持や皮膚・粘膜の健康を保つために重要な栄養素で、不足すると免疫力が低下するだけでなく、体調不良の原因にもなります。さらに日本酒には亜鉛などのミネラルも含まれており、これらは体の抵抗力を高める働きがあります。そして発酵食品である日本酒は、腸内環境を整えることによって、風邪などの感染症に対する抵抗力を高める効果も期待できます。
このように、発酵食品である日本酒はアミノ酸やビタミンB群、亜鉛などの成分によって、体の内側から免疫力をサポートしてくれる飲み物であるため、私はお酒の中でも日本酒を大いに推奨しています。とくに、日本酒の中でも米・米麹・水のみを原料として造られる純米酒がお勧めです。秋田大学・滝澤行雄名誉教授らの研究(複数論文)や、最近の数々の研究によれば、純米酒には必須アミノ酸・活性ペプチド(白ワインの10倍以上)・フェルラ酸などのポリフェノール・トリペプチド(グルタミン酸・システィン・グリシン)・セリン(天然保湿因子NMFの1つ)などの有効成分がさらに多く含まれ、これらが抗酸化作用・炎症抑制作用などを示すと報告されています。

【風邪に有効な日本酒の飲み方】

風邪予防を意識して日本酒を楽しむなら、体を中からしっかり温める飲み方がおすすめです。定番の「熱燗」は、体温に近い温度で飲むことで胃腸にやさしく、全身の血行を促進して体の芯から温まります。寒い季節や風邪の引きはじめには、とくにお勧めの飲み方です。はちみつ入り熱燗はさらにお勧めです。はちみつには抗菌作用や保湿効果もあるため、のどの違和感が気になるときには有効です。さらに昔から親しまれているのが「卵酒」です。卵酒は日本酒に卵と砂糖を加えて作る、日本の伝統的なホットドリンクです。卵には粘膜を丈夫に保つタンパク質や、免疫力を高める酵素リゾチームが含まれており、ウイルスの侵入に対する防御が期待できます。体を芯から温めてくれるだけでなく、良質なタンパク質が粘膜を防御し、風邪の予防に役立つばかりでなく、体力の回復にも役立ちます。また「生姜酒」もお勧めです。熱燗にすりおろし生姜や薄切りの生姜を加えることで、さらなる発汗作用や血行促進効果が期待でき、風邪の初期症状に最適です。生姜に含まれるジンゲロールやショウガオールという成分は、体温を上げるだけでなく、免疫力を高め、抗菌作用もあるとされています。これらの飲み方はどれも体を中から温め、リラックス効果を高めてくれます。

【注意すること】

ただし、どんなに体に良いとされる日本酒でも、飲みすぎは逆効果です。アルコールの摂りすぎはかえって免疫力を下げ、体調を崩す原因にもなります。アルコールは肝臓で分解される際に多くのエネルギーを消費するので、体が本来持つ免疫力を十分に発揮できなくなることがあります。また、風邪薬などの薬を服用している場合、アルコールと薬が肝臓で拮抗し、薬の効果が弱まったり、思わぬ副作用が現れたりすることもあります。さらに、アルコールの利尿作用によって体内の水分が失われやすく、発熱時に必要な水分補給が不十分になり、脱水症状を引き起こす可能性もあります。

【おわりに】

これからの季節、健康と風邪予防のために大いに日本酒、純米酒を嗜もうと思っています。ただし、過ぎては及ばざるがごとし。1日1~2合程度にすること(1日2合以上で発がんリスクが上昇します)。日本酒の有害、欠点については次回、日本酒と健康の第2回目「呼吸器疾患と日本酒」で述べたいと思います。

NPO女性呼吸器疾患研究機構  理事長 
宮元 秀昭 

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